カン、カン。
硬い石でつくった硯は、叩くと甲高い音がする。
コン、コン。
少し柔らかめの硯は、微妙に音が違う。少し、低い音。
僕らが訪れたのは、石巻市雄勝にある、雄勝硯をつくる「エンドーすずり館」。代々、雄勝石を採石していた遠藤さんの家系は、遠藤弘行さんで四代目。硯職人としては、先代に続いて現在も手彫りで硯をつくり続けています。
水を少したらし、墨を摺る。柔らかい方はゴリゴリと。硬いほうはスルスルと。墨を摺るときの感触もこんなに違うんだ。「柔らかい硯はね、墨と一緒に硯も削ってしまうんです。だから、墨の感じも『ぼてっ』とした印象になってしまう」
硯ひとつで、こんなにも墨の表情が変わってしまうってのを、比べてみて初めて知りました。
雄勝石というのは、雄勝で採石される黒くて光沢のある硬質粘板岩のこと。玄昌石とも呼ばれています。雄勝がまだ海の底だった頃に堆積した粘土や泥が長い年月を経て岩になったもの。一定の方向に力を加えると、薄いプレート状に割れるのが特徴です。
その加工のしやすさや、雨や衝撃にも強いという特性を活かして、「天然スレート」として建築物の屋根などにも利用されています。
MORIUMIUS(モリウミアス)の屋根に使われているのも、この雄勝石のスレートです。
2011年に発生した東日本大震災の影響で、復元中の登米産のスレートや、新たに追加する予定だった雄勝産のスレートも津波で流出の被害を受け、ひとつひとつ回収しては洗浄や検品を行い、ようやく東京駅の屋根として納品できたとのことです。東京駅丸の内南口の地下改札近くに、雄勝の子供たちが絵を描いた雄勝石の壁画が設置されています。
雄勝石は硯の原料として用いられ、この「雄勝硯」は全国の硯のシェア90%を占めていると言われています。
以前は、雄勝に28名の硯職人さんがいるという話を聞きました。
今回、雄勝硯生産販売協同組合の方に伺ったところによると、現在は雄勝で硯をつくっている職人さんは4名のみ。そのうちの2名は、雄勝硯生産販売協同組合の事務所のある仮設の「おがつ店こ屋街」と同じ敷地内にあるプレハブの工房で制作を続けているそうです。
今回僕らが訪れた「エンドーすずり館」の遠藤さんは、もともとは石を採掘する家系だったそうです。現在は、組合には所属していませんが、雄勝石を使った硯を制作しています。
同じ雄勝石でも、硬さや色などまちまちです。
柄を肩に当てて押し出すタイプの鑿を使って彫るのをちょっと体験させてもらいました。力いっぱい鑿を押し当てても、硬い石はなかなか削れない。「これは大変な作業だな」と思いました。
MORIUMIUS(モリウミアス)に訪れたら、ぜひこの黒い屋根の雄勝石にも注目してみてください。